製品開発


問題解決過程としての医薬品開発

 医薬品の開発は極めて特殊だといわれる。しかし、他の産業と比較して何が特殊であるかは学術的にも、実務的にも必ずしも明確ではない。臨床試験は 医薬品開発の特殊性を象徴するものの1つだが、こうした産業固有の概念や用語を使っていては、産業横断的な比較はできない。そこで本稿では、産業間比較に適した汎用性をもつ問題解決モデルをフレームワークとして医薬品の製品開発プロセスを分析し、その特徴と有効なマネジメントを整理する。問題解決の視点で捉えれば、医薬品開発の特徴は、解の代替案の「創出数の多さ」と「テストの複雑さ」の両方を必要とされる点にある。どちらか一方を要求される製品・産業は他にもあるが、両方のケースは希である。そしてこの特徴は、医薬品の製品開発マネジメントとも密接に関係している。すなわち、製品開発コストを考慮すれば、「多数の創出」と「複雑なテスト」を同時に行うことは難しい。そこで製薬企業は、開発プロセスの上流では創出を、下流ではテストを重点的に行い、両者のバランスを切り替えることでこの問題に対応している。その切り替えのタイミングの判断は、医薬品開発の成果に影響する最も重要なマネジメントの1つである (Kuwashima, 2015)。

 医薬品の研究開発では、理論的には10の60乗もあると言われる多数の潜在的な代替案(化合物)のなかから、どうやって新薬を発見するかが重要な課題である。本稿では、武田薬品の「ロゼレム(Rozerem)」の事例分析を通して、新薬の発見プロセスを探る。近年は、自動化技術を活用して大量の代替案(化合物)を創出しテストする手法が主流であるが、本事例では、研究者の経験と知識に基づいた論理的な化合物設計によって、少数の代替案の探索で「ロゼレム」が発見された (Kuwashima, 2016)。


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