多角化の日米比較の問題点


 多角化の日米比較の代表的な研究として、吉原他(1981)は有名だが、そもそも吉原他(1981)の日本の数字をルメルト(Rumelt, 1974) の米国の数字と横断的に比較することは無意味である。そのことを高橋(1995) 第1章の指摘に基づいて整理しておこう。

  1. 両者では母集団の定義が異なっている。つまり、そもそも横断的調査になっていない。日本での母集団は1970年度の鉱工業売上高トップ100社、資本金トップ100社、主要14業種ごとの売上高トップ3社のいずれかに該当する企業118社であり、そのうち4社は設立がそれぞれ1955、56、57、59年のため、1958年度のデータがなく、サンプルから除かれている。これは統計学的にはパネル調査と呼ばれる方法で、単一の母集団に対して一度だけ標本抽出を行い、この同じ標本に対して複数時点で反復して調査が行われる。その際のこの固定された標本をパネル(panel)と呼ぶのである。それに対して、米国では、雑誌『フォーチュン』(Fortune)の1949年、1959年、1969年の最大500社リストからそれぞれ100社を無作為抽出した後、特殊な方法で推定を行なっている。つまり、パネル調査のようにパネルを固定せず、調査の度に標本抽出を行うので、当然、標本の構成は変わってくる。これは繰り返し調査と呼ばれる方法で、当然、米国の数字は無作為抽出標本に基づく推定値なので、その解釈には注意がいる。おそらく、前述のように、合併・買収の憂き目に会った企業は大企業であっても次々と姿を消していったために、パネル調査をできなかったのであろう。同時期、日本企業では1社も脱落していないが、これは1970年度に存在している企業を母集団としているから当然である。逆に言えば、日本側のデータのとり方では、本当に脱落した企業がなかったとは断定でない。
  2. この『フォーチュン』誌に毎年掲載される「米国産業企業最大500社」は、連結収益から見て最大500社に入る、収益の少なくても50%を製造業か鉱業からあげている企業とされている。子会社も含めた連結決算の数字を基にしていることが、日本の場合と決定的に異なる。日本では単独決算の数字を用いているので、子会社を用いた多角化が進行し、単独決算と連結決算の数字の間に著しく違いの生じているような企業は母集団から落ちやすくなっているのである。日本では1977年度決算から連結決算が取り入れられたので、データとして利用できなかった可能性が高いが、それでも吉原他 (1981, p.21)自身が「子会社を用いた広範な多角化を行なっている企業が多い場合には、われわれのデータは必ずしも真実の姿は伝えていないことになる」と述べているように、そもそも日米比較には意味がない。実際、当時の日本企業が行っていた内部展開型の多角化の場合、最初は本体内で起業し、揺籃(「ようらん」;ゆりかごのこと)期は本体内部門として過ごすが、成長して利益が出るようになると、本体事業を切り出す形で分社化することが多く、単独決算であれば、分社化時は本体の多角化度が低下するはずである。
  3. そもそも吉原他(1981)が扱っている多角化は範囲が狭すぎて、その数字をもってして、日米比較をすること自体に意味がない。吉原他(1981, p.9)では多角化を「企業が事業活動を行なって、外部に販売する製品分野の全体の多様性が増すこと」と定義している。吉原他(1981, p.13)では、製品分野は単位事業の概念を当てはめており、その分野の重要意思決定が他の分野の事業活動に大きな影響を及ぼすことなく行ない得る程度に独立性を持った分野で、イメージとしては、日本標準商品分類の3桁商品程度の分類の細かさにほぼ対応しているとされている。そこで問題になってくるのは「日本標準産業分類」ではなく「日本標準商品分類」を用いているということである。これは多角化の研究としては明らかな誤りで、商品分類は産業分類とは本質的に分類目的・方法が異なるうえに、1964年に日本標準商品分類が改定されたときに、非鉄金属、家具などの中分類商品で小分類項目の数が10を超えてしまい、これらの商品では小分類は4桁表示になり、既に「3桁商品」なるものは存在していなかった(高橋, 1995, p.43)。しかも、商品分類には商品以外のサービス等は含まれないという産業分類の代用としては致命的な欠陥がある。実際、ルメルトのサンプル企業のリスト(Rumelt, 1974, Appendix C)に挙げられた246社の中の少なくとも50社以上は多角化の対象の事業として、「D 建設業」、ラジオ・TV放送、映画配給などの「G 情報通信業」、倉庫や運輸などの「H 運輸業」、ガソリン・スタンド、コンビニエンス・ストアなどの「I 卸売・小売業」、「J 金融・保険業」、リースなどの「K 不動産業、物品賃貸業」、興信所、研究などの「L 学術研究、専門・技術サービス業」、レストラン、ホテルなどの「M 宿泊業、飲食サービス業」、旅行代理店、スキー場などの「N 生活関連サービス業、娯楽業」、「O 教育、学習支援業」、メンテナンスなどの「R サービス業(他に分類されないもの)」といった「E 製造業」以外の商品分類では扱えない産業に進出している。吉原他(1981)の研究では、日本企業のこうした商品分類では扱えない産業への多角化をそもそも認識していなかったことになり、日米比較の点では致命的な欠陥がある。

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