科学的管理法


テイラーの科学的管理法

 テイラー(Frederick W. Taylor; 1856-1915)の科学的管理法が主に対象としたのは、生産現場や事務部門で行われる次のような特性を持った課業である(March & Simon, 1993, pp.31-32 邦訳pp.16-17)。

  1. 大部分が反復的である。そのため、労働者個人の日々の活動は、実質同一もしくは類似の活動の多数の周期的反復に分解できる。
  2. 担当労働者自身による複雑な問題解決活動を必要としない。訓練や経験を積んだ労働者であれば、各課業を実行するための標準的方法を身に付けている。

 テイラーとその後継者たちは、科学者というよりむしろ技術者の視点で、ルーチン的仕事の効率的な組織と管理のための処方箋を与えている。テイラーの主要な処方箋は三つある(March & Simon, 1993, p.39 邦訳pp.25-26)。

  1. 職務遂行の「唯一最善の方法」をみつけるために、時間研究・方法研究を用いよ。ここで最善の方法とは、一日の平均生産率を最大にする方法を意味する。
  2. 最善の方法かつ適切なペースで職務を遂行するように、労働者に奨励給(an incentive)を与えよ。一般的に、労働者が標準生産量を満たしたならば、一日の賃率を超えてボーナスを支給せよ。
  3. 方法、機械の速度、課業の優先順位等、労働者の課業を取り巻く諸条件を確立するために、特化した専門家「ファンクショナル職長」を用いよ。
このうち処方箋3は、ファンクショナル組織として提案される。ここでは処方箋1と2について検討する。

 こうした比較的ルーチンな課業は、たとえば「ボルト締め付け」のように、労働者の心の過程を記述しなくても、見える行動だけでほぼ完全に記述できる。対照的に、人間のより高度な心の過程である問題解決過程は、通常の手作業の記述とは非常に異なっている(March & Simon, 1993, pp.32-33 邦訳pp.17-18)。しかし、伝統的な時間研究・動作研究は、こうした問題解決過程を回避して、ルーチン的製造作業に対象を限定したことで、人間の生産活動の測定精度はかなり向上し、多くの人間工学的基本問題が提起、部分解決された(March & Simon, 1993, p.32 邦訳pp.16-17)。

時間研究

 では、時間研究とはどんなものか。マーチ=サイモン(March & Simon, 1993, pp.33-34 邦訳pp.18-19)が取り上げたのは、ウェスティングハウス・エレクトリック社の時間研究の専門家3人が書いた、この分野で標準的とされる『時間研究による作業標準決定法』の第3版(Lowry, Maynard, & Stegemerten, 1940)である。特に第2部「公式(formulas)」を例にして説明している。ここでいう公式とは、重回帰式のようなイメージのものである。色々な変数に値を入れて、いわゆるダミー変数に相当する定数の組合せも含めて、所要時間を推定できるようにしたものを彼らは公式と呼んでいた。たとえば、「非鉄金属を旋盤にかける」(Lowry, Maynard, & Stegemerten, 1940, ch.34: pp.379-415)いわゆる旋盤操作の細かい記述は、

  1. 部品を持ち上げて機械に運びなさい
  2. 中間部品をチャック(旋盤のつかみ)に定置しなさい
  3. 18インチ旋盤の独立チャックを締め付けなさい
といった調子で始まって、全部で183個の細かい操作(detail operations)からなると記述される(Lowry, Maynard, & Stegemerten, 1940, p. 388)。このように精密な行動記述を行っても、たとえば「A. 部品を持ち上げて機械に運びなさい」という指示は、いろいろなやり方で実行できる。そこでさらに、時間標準(たとえば Aに許される時間は0.0049時間=約18秒)を設定することで、労働者の実行方法選択の自由を厳しく制限するのである(March & Simon, 1993, pp.33-34 邦訳p.19)。このように、複雑な活動も、基本動作(basic motion)に要素分解して、その要素の単位時間を合計することで、全体の標準時間を算出できると考えて、テイラーが提案したのが時間研究だった。

 こうした中で、単位課業の時間を総和して時間標準を設定する「方式」が数多く考案された。メイナード=ステジマートン=シュワブが著した『メソッド・タイム設定法』(Methods-time measurement) (Maynard, Stegemerten, & Schwab, 1948)は、そのような方式の一つである(March & Simon, 1993, pp.34-35 邦訳p.20)。同書は時間研究と動作研究の良いところを一つにまとめた作業工学(methods engineering)の立場をとっており、メソッド・タイム設定法は、作業方法と時間を同時に考える手法とされる(ch.1)。この方式では、手をのばす、移動する、まわす、つかむ、定置する、分離する、手を放す、という七つの動作(motion)ごとにデータを集めて時間データ表が作成される。その際、同じ動作でも、条件と移動距離によって所要時間が異なるので、条件で場合分けした上で、各動作の標準時間を測定して、より正確な所要時間を求める。たとえば、「手をのばす」については、「その前に手が動いているかどうか、移動距離、手をのばす対象が正確に置かれているか」で時間が変わってくる。そこで、始点・終点で手が動いているかどうかで三つ、手をのばす対象の状態で五つに場合分けする。さらに移動距離の求め方は、数行では要約できないほど緻密で複雑である(Maynard, Stegemerten, & Schwab, 1948, ch.5)。 にもかかわらず、マーチ=サイモン(March & Simon, 1993, p.35 邦訳p.21)によれば、人間は機械よりもはるかに複雑なので、こうした試みには限界があった。実際、工業的職務の時間標準を構成単位の標準データから合成できるケースは限られ、通常は直接推定されている。

動作研究

 ギルブレス夫妻(Frank B. Gilbreth; 1868-1924/Lilian M. Gilbreth; 1878-1972)に代表される動作研究(Gilbreth & Gilbreth, 1917)では、動作の改善が目的とされる。実際、ギルブレス(Frank B. Gilbreth)は、数百年の間ほとんど何ら改良も試みられなかったレンガを積む方法を改善している。レンガ積み職人の各動作について分析と研究を行い、職人の速さと疲労とに少しでも影響を及ぼすような要素はどんな細かいものでも実験して、不必要な動作は一つ一つこれを省いてしまい、遅い動作は速い動作と取り替えていった。その結果、標準的な条件の下で、レンガ1個を積むに要する動作を18から5、もしくは場合によっては2にまで減らしてしまったといわれる。これによって、1人1時間当り120個しか積めなかったものを、1人1時間当り350個も積めるようになったという(Taylor, 1911, pp.77-81 邦訳pp.282-285)。

 現在でも、動作研究の際に、図1のような手作業の単位動作を表す18種の記号「サーブリッグ」用いられることがあるが、これもギルブレス夫妻(Gilbreth & Gilbreth, 1917)が考案したものとされ、サーブリッグ(therblig)はギルブレス(Gilbreth)の綴りを逆から読んだものになっている。


図1 サーブリッグ

 動作節約(motion economy)は、主にこうしたギルブレス夫妻の研究に由来する(March & Simon, 1993, p.39 邦訳p.26)。マーチ=サイモンは、その典型として、バーンズの『動作・時間研究』の第3版(Barnes, 1949)から動作節約の22原則を説明抜きで列挙している(March & Simon, 1993, pp.39-40 邦訳pp.26-28)。バーンズは、動作節約の22原則を、

  1. 人体の使用に関する8原則(ch.15)
  2. 作業場の整備に関する8原則(ch.16)
  3. 工具および設備の設計に関する6原則(ch.17)
の3グループに分類している(Barnes, 1949, pp.192-312)。たとえば、「a. 人体の使用に関する原則」としては、第1原則「両手の動作は同時に始め、また同時に終わるべきである」。第2原則「休憩時間以外は、同時に両手を遊ばせてはいけない」といった具合で挙げられ、説明されていく。

 こうした動作研究や時間研究に対して、マーチ=サイモンは批判的なのだが、それは為にする批判の感をぬぐえない。たとえば、実はサイモンもゲッコウとの実験(Guetzkow & Simon, 1955)で、メソッド・タイム設定法を使っていて、うまく測定していたのだが、マーチ=サイモンがこの論文を引用した際には(March & Simon, 1993, ch.6, p.164)、なぜか “methods-time measurement” とは呼ばずに “methods-analysis technique” と呼んで、そのことを隠しているように見える。また、マーチ=サイモンは、サーブリッグの実行時間は、多くの付帯条件に依存しているので、単位時間のむらが大きいと批判するが(March & Simon, 1993, pp.34-35 邦訳p.20)、そもそもサーブリッグは動作研究のためのツールであり、本来の目的は動作の改善にある。それを時間研究のツールとしては問題があると批判すること自体が的外れである。元々、1910年〜1930年頃には、時間研究派と動作研究派の2派は互いに批判し合っていたほどで(Maynard, Stegemerten, & Schwab, 1948, ch.1)、両者は別物なのである。

奨励給の効果に対する疑問

 科学的管理法では、時間研究に基づいた奨励給(incentive payments)が労働者の動機づけで効果があると仮定されている。しかし、マーチ=サイモンによれば、そうした仮定は常に単純過ぎ、しばしば間違いである。実際、時間研究・動作研究は、労働者に、奨励給(incentive pay)の最大化こそが長期的利益になると説いたものの、成功には程遠かったとし、その記録(Viteles, 1953, chs.2-3)も挙げている(March & Simon, 1993, p.38 邦訳p.24)。 現実には、奨励給(wage incentive)の動機づけ効果自体に重大な疑問があり、その証拠もある。マーチ=サイモンは、その第3章の結論を次のように要約している(March & Simon, 1993, p.38 邦訳pp.24-25)。

  1. 賃金は、全体として数ある報酬のうちの一つにすぎない。
  2. 賃金の効用関数は、「満足」概念を反映すれば不連続かもしれず、線型でもあるいは単調でさえもないかもしれない。
  3. この効用は、要求水準の変化につれて時とともに変化する。
そのため奨励給(wage incentive)の効果は安定しないというのである。

 例えば、(a)賃金がもらえなくても一生懸命何かに取り組んだ(=賃金以外に報酬があった)経験を多くの人がしているし、(b)突然「10倍の賃金を支払うから」といわれたら、何かとてつもなく危険で責任の重いことを押し付けられるとの警戒感から、一気に仕事が楽しくなくなるだろう。(c)それまで賃金の額に何の不満もなかったのに、羽振りの良い(高給取りの)学生時代の友人に会ったとたん、それと比べて自分の賃金は安すぎると(=賃金の要求水準が高くなった)、猛烈な不満をもつようになるかもしれない。つまり、賃金だけで動機づけを行うことは本質的に無理なのである。 さらに、団体交渉の存在やこの制度に対する労働組合の概して冷淡な態度が、奨励給制度(incentive plan)の効果を分かりにくくしている (March & Simon, 1993, p.38 邦訳p.24)。


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