自己決定   組織活性化カルテoractika


自己決定度

 デシの『内発的動機づけ』(Intrinsic motivation) (Deci, 1975)は内発的動機づけを次のような命題の形にまとめている。

 命題(Deci, 1975, Proposition II を修正). もし、ある人の有能さと自己決定の感覚が高くなれば、彼の満足感は増加する。逆に、もし、有能さと自己決定の感覚が低くなれば、彼の満足感は減少する。

 つまり、人には有能で自己決定的である感覚に対する一般的な欲求である変化性向があるために、内発的に動機づけられた行動をとり、その結果、有能さと自己決定の感覚が高められれば、満足感を得ることになると考えたのである。デシ自身は自己決定の測定尺度を提示していないので、高橋(1993, chap.4)は、 

  1. トップの経営方針と自分の仕事との関係を考えながら仕事をしている。(はい=1; いいえ=0)
  2. 上司からの権限委譲がなされている。(はい=1; いいえ=0)
  3. 自分の意見が尊重されていると思う。(はい=1; いいえ=0)
  4. 21世紀の自分の会社のあるべき姿を認識している。(はい=1; いいえ=0)
  5. 良いと思ったことは、周囲を説得する自信がある。(はい=1; いいえ=0)
の5問の合計点として自己決定度(degree of self-determination; DSD) を定義した。そして、満足比率を
Q. 現在の職務に満足感を感じる。(はい=1; いいえ=0)
に「はい」と答えた人の比率と定義すると、JPC調査1990年828人、1991年886人のデータでそれぞれ自己決定度が大きくなるほど満足比率が高くなるというほぼ線形の関係が見られた(R2=0.9830, R2=0.9407)。高橋(1993, chap.8)は、さらにJPC調査1年分のデータを追加し、1990〜1992年の3年2429人分のデータを使って線形の関係があることを示した(R2=0.9669)。同様に、高橋(1997, chap.4)はJPC調査4年分のデータを追加し、1990〜1996年の7年6193人分のデータを使って線形の関係があることを示した(R2=0.9745)。こうして、JPC調査はさらに2000年まで継続されたので、Takahashi (2002)は、1990年〜2000年に調査した日本の大企業46社の385の組織単位で働く10916人のホワイトカラーのデータを使って、自己決定度が高くなるほど満足比率が高くなるという強い線形の関係がある(R2=0.9881)ことを明らかにしている。

自己決定理論は疑似相関

 ところが、こうした相関関係は、疑似相関である可能性が出てきた。X社について毎年度1回のペースで行なわれてきた全数調査「X調査」のデータを使った高橋・大川・稲水・秋池(2013)でも、2004〜2012年度の9年間でのべ11706人のデータで、自己決定度と満足比率の間には強い線形の関係が見られた (R2=0.9599)。しかし、職種・職位によって、自己決定度の変動の帯域がほぼ決まっていたのである。このことは、見通し指数と比較すると一目瞭然であり、自己決定度と満足比率の間の関係が疑似相関である可能性が高いことを示している。さらにTakahashi, Ohkawa, and Inamizu (2014)でも、2004〜2013年度の10年間でのべ13,019人のデータで、自己決定度と満足比率の間には強い線形の関係が見られたが (R2=0.9625)、職種・職位によって、自己決定度の変動の帯域がほぼ決まっていた。

 見通し指数との比較は、さらに高橋(2019)高橋(2020)でも2004〜2015年度の12年分のX調査のデータを使って、詳細に行われており、たとえば、時系列的に観測すると、X社の組織改革時(2005年)に満足比率が大きく下がった時も、見通し指数は連動していたが、自己決定度は全く連動していなかった。こうした色々な角度から検討した結果、自己決定度と満足比率の間には因果関係はなく、疑似相関であると判断して間違いない。つまり、自己決定度は職位によっ大きく制約されるものであり、上の職位の方が当然、大きな権限をもっており、自己決定度も高い。そして、上の役職の方が満足比率も高かったというだけだったのである。


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