二つ以上の異なる文化が接触することによって、双方、もしくは一方の文化が変容するという過程を文化変容(acculturationあるいは文化触変とも訳す)と呼ぶ。比較文化心理学で有名になるBerryは、1970年代、文化変容の概念を成熟させていった。マイノリティにおける生態と個人の発達に関する研究(Berry, 1971)、西洋化に直面しているマイノリティの心理ストレス(これを「文化変容ストレス(acculturative stress)」と呼んでいた)に関する研究(Berry & Annis, 1974)を経て、最初の著作(Berry, 1976)で、マイノリティ(特にアメリカン・インディアン)が西洋文化に接した際の、自文化と西洋文化とに対する心理的傾向を表す二つの質問を軸として表1のように文化変容を4つに類型化して整理した(Ohkawa, 2015)。これが後に、経営学分野で、合併・買収の際の文化変容を分析した研究(Buono, Bowditch, & Lewis, 1985; Nahavandi & Malekzadeh, 1988)などで「文化変容モデル」として引用されることになる。
表1. 文化変容の4類型
より大きな社会との 肯定的な関係が求 められるべきか? |
伝統的な文化は価値が あり保持されるべきか? | |
---|---|---|
Yes | No | |
Yes | 統合 | 同化 |
No | 拒絶(分離) | (失文化) |
このBerryモデルは、
とはいえ、表1は分類ラベルの整理としては、実に合理的にできている。さらに分かりやすく、「伝統的文化を捨てる」ことを同化志向、「西洋社会から自己隔離する」ことを分離志向と呼ぶことにすると(高橋, 大川, 八田, 稲水, 大神, 2009)、「同化」とは、伝統的文化を捨て、西洋社会の中で生きていくこと、それとは対照的に、「拒絶(分離)」とは、西洋社会を拒絶し、そこから自己隔離して伝統的文化を守ること、そして「統合」とは、西洋社会の中で暮らしながら、伝統的文化も守ることになる。
四つのセルの中では、「失文化」がどのような状態なのかわかりにくい。しかし、実は現実の企業の中にも、「失文化」になりやすい状況に置かれている人々がいる。それは、他の会社からの出向者である。完全に転職したわけではなく、いずれは元の会社に戻るかもしれない出向という形で今の会社に勤めている場合、そもそも付き合うべき周囲の人が2グループ存在し、しかも、自分は出向者であるという自覚があればあるほど、どちらにも合わせようとするだろう。そこで、高橋, 大川, 八田, 稲水, 大神 (2009)は、「他の会社からの出向者は、分離志向のレベルも同化志向のレベルも高くなる傾向がある。すなわち失文化の状態になりやすい」という仮説を立て、表1の縦軸方向の「分離志向」と横軸方向の「同化志向」の測定尺度を提案して、実際に失文化の状態にあることを検証している。