能力構築


現場競争力・市場競争力

 藤本 (2003)『能力構築競争』(中央公論新社)他が日本の製造企業の強みとして指摘した、現場の生産能力を活用する戦略は、capability-based cost leadership strategy (CBCL strategy)ともいうべきものである。1990年代になると、環境変化によりこの戦略が機能しなくなり、日本の製造企業の国際競争力が低下する。この状況を打破する方策として、藤本 (2003) は市場パフォーマンスを強化し、高いものづくり品質を消費者にアピールする差別化戦略をとるべきだと主張した。しかし、結局、日本の製造企業の業績回復は、新興国の人件費高騰、為替相場の円安シフトといった、CBCL strategyに合った環境に戻ってからだった。このことは、日本の製造企業の多くが、市場における競争力の強化による差別化戦略への転換ができず、CBCL strategyのままだったことを示唆している(Wada, 2018)。

 Fukuzawa (2015)は、日本の電機産業における97事業所(工場)を対象とした質問紙調査のデータを用いて、藤本(2003)『能力構築競争』(中央公論新社)の枠組みにもとづき現場競争力と市場競争力を測定した。さらに、当該事業所における雇用状況についても調査した。その結果、日本の電機現場の強みとして、

  1. 日本の電機メーカーの現場は、自社の海外拠点に対して「製造コスト」を除いたすべての現場競争力指標において優れていること
  2. 顧客対応力の高さが、市場競争力の主要な源泉であること
が示された。一方、これらの現場が抱える主要な課題が、正規社員の年齢構成のゆがみであることも示された。将来へ向けた技能の受け手が少なく、同時にベテラン層の人件費が増加していく中で、その原資をどうやって確保していくのかについて熟考し、対策を打つことが喫緊の課題である。今後も日本の製造現場が優位性を獲得・維持していくためには、製造面での地道な能力構築や設計・開発力のさらなる向上、若手人材の育成が重要である。


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