文化的隔たり指標


ホフステッドの国民文化の四つの次元

 国民文化の国際比較で、ホフステッド(Geert Hofstede; 1928-)の『経営文化の国際比較』 (Culture's consequences) (Hofstede, 1980)は、画期的で、多国籍企業IBMにおける文化の国際比較を40ヶ国にわたって行なったという点で注目すべき研究である。一般的に普及して邦訳もあるのは1984年の簡略版(Hofstede, 1984)の方であるが、IBMは同書中HERMESとニックネームで仮称され、IBMはいまだにHERMESがIBMであることを公式には認めていない。

 このIBMデータには、次の4指標で測られる国民文化の四つの次元(the four dimensions of national culture)が現れたとされる。

  1. 権力格差(Power Distance Index; PDI)
  2. 不確実性回避指標(Uncertainty Avoidance Index; UAI)
  3. 個人主義指標(individualism index; IDV)
  4. 男性らしさ指標(masculinity index; MAS)
そして、40ヵ国について、これら4指標を求めたものが、表1である。

表1. 国民文化の四つの次元
国名  権力格差 
PDI
不確実性回避
UAI
 個人主義 
IDV
男性らしさ 
MAS
アルゼンチンArgentina49864656
オーストラリアAustralia36519061
オーストリアAustria11(min)705579
ベルギーBelgium65947554
ブラジルBrazil69763849
カナダCanada39488052
チリChile63862328
コロンビアColombia67801364
デンマークDenmark18237416
フィンランドFinland33596326
フランスFrance68867143
西ドイツGermany (F.R.)35656766
英国Great Britain35358966
ギリシアGreece60112(max)3557
香港Hong Kong68292557
インドIndia77404856
イランIran58594143
アイルランドIreland28357068
イスラエルIsrael13815447
イタリアItaly50757670
日本Japan54924695(max)
メキシコMexico81823069
オランダNetherlands38538014
ニュージーランドNew Zealand22497958
ノルウェーNorway3150698
パキスタンPakistan55701450
ペルーPeru64871642
フィリピンPhilippines94(max)443264
ポルトガルPortugal631042731
シンガポールSingapore748(min)2048
南アフリカSouth Africa49496563
スペインSpain57865142
スウェーデンSweden3129715(min)
スイスSwitzerland34586870
台湾Taiwan58691745
タイThailand64642034
トルコTurkey66853745
米国U.S.A4046**91(max)62
ベネズエラVenezuela817612(min)73
ユーゴスラビア*Yugoslavia76882721
平均52645050
標準偏差20242520
* IBMではないが、同一業務を行なっている企業。
** Hofstede (1980, Appendix 2)の単純集計から藤田(1999)が再計算した値は61。他の国については再計算しても数値は一致しており、Hofstedeの計算ミスの可能性が高い。
(出所) 高橋(2003) p.174, 表5.3。Hofstede (1984)のp.77, Figures 3.1; p.122, Figure 4.1; p.158, Figure 5.2; p.189, Figure 6.1をまとめて、国名のアルファベット順に1枚の表に整理したもの。

 Kogut and Singh (1988)はこれを使って、米国を中心にして、文化的隔たり(cultural distance)を測定することを思いついた。それが次の指標である。

 この指標は国際経営の分野でよく使われ、30年後に同じジャーナルに発表された論文 Cuypers, Ertug, Heugens, Kogut, and Zou (2018)では、任意の2国間に一般化されたKogut-Singh cultural distance index:

になっている。ところで、よく使われたCDの方は、米国を中心にして文化的隔たりを測定することになっているのだが、表1の**の部分をよく読んでほしい。米国の不確実性回避指標UAIは46になっているが、Hofstede (1980, Appendix 2)の単純集計から藤田(1999)が再計算した値は61だったのである。他の国については再計算しても数値は一致しており、Hofstedeの計算ミスの可能性が高い。中心の値がこんなにずれていても、特に変なことにならなかったのだろうか。仮にそうだとすると、要するに、文化的隔たりは、あまり意味のない指標だったのかもしれない。


Kogut, B., & Singh, H. (1988). The effect of national culture on the choice of entry mode. Journal of International Business Studies, 19(3), 411-432. ★★★

Cuypers, I. R., Ertug, G., Heugens, P. P., Kogut, B., & Zou, T. (2018). The making of a construct: Lessons from 30 years of the Kogut and Singh cultural distance index. Journal of International Business Studies, 49(9), 1138-1153. ★★★


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