日本では、価格競争によりガソリンで利益の出なくなったガソリンスタンド(GS)は、ピーク時の1994年末の59,615カ所から四半世紀で数が半減し、2019年末には29,637カ所になってしまった。追討ちをかけるように、日本政府は2035年にガソリン車とディーゼル車の販売を終了する方針を掲げた。多くの人はこう思っているはずだ。ただでさえ先細りで薄利のガソリンを売っているGSが、さらにこれからカーボンニュートラル(carbon neutrality)の時代を迎えてガソリン車自体がなくなっていくという流れの中で、生き残れるわけがないと。しかし、ここに、生き残る戦略を見出した日本のGSの会社がある。ヤマヒロの事例は、(A)傘下のGSを油外サービスで、車検・点検、洗車・コーティング、レンタカーの3グループに分け、各店舗の訴求サービスを絞り込んで専門性を高め、(B)セルフサービスGSにもかかわらず、店頭の人員を減らさずに、車番認証システムと車両情報管理システムを連動させて、油外・サービスの利益向上につなげ、(C)レンタカー事業と中古車販売事業にもその車両情報を活用してシナジー効果を生み出し、(D)石油元売から不採算店を従業員丸ごと引き受けて再教育して立て直すことでGSの数を増やしてきた。こうして、東京圏で業容を拡大するとともに、利益の40%を油外サービスから稼ぎ出すまでになり、「たとえガソリン自動車がなくなっても、自動車はなくならない」未来に、自動車関連サービスで生き残るGSの姿を描いて見せてくれ、日本経営品質賞(Japan Quality Award; JQA)を受賞した(Takahashi, 2022)。ただし、計画的戦略(deliberate strategy)と呼べるのは、(A)の各店舗の訴求サービスを絞り込んだことくらいで、それ以降は、創発的戦略(emergent strategy)だった。言い方を変えると、経営者は、最初から脱炭素時代を見据えて、ものすごく先見性があって、(A)〜(D)のような戦略を立てていたわけではなく、途中で色々と気が付いて、戦略を作り上げてきたのである。