エンゲージメント


ワーク・エンゲージメントと従業員エンゲージメント

 エンゲージメントは、研究においても、また経営の実践においても注目されている概念である。しかし、エンゲージメントには、対象がワークやジョブか、企業や組織かといった違いで、様々なタイプのものがありうる。Kosaka and Sato (2020)は、ワーク・エンゲージメント(work engagement)と従業員エンゲージメント(employee engagement)の概念についての比較検討から、次の3点を指摘する:

  1. マネジメントの分野のアカデミック・ジャーナルではどちらの用語も同じような頻度で使われるが、アカデミックではない記事では従業員エンゲージメントばかりが使われ、医学・看護学系の論文ではワーク・エンゲージメントばかりが使われる。
  2. このうちワーク・エンゲージメントについては、もともと病院で働く看護師などを対象とした「燃え尽き(burnout)症候群」の研究が源流だったためと考えられる。
  3. 2つの概念を十分区別していない研究も多くみられるが、測定対象やその源流の違いから異なる概念として扱うべきである。

ワーク・エンゲージメント=「やる気」

 ワーク・エンゲージメントについての代表的な研究がSchaufeli, Salanova, Gonzalez-roma, and Bakker (2002)である。この研究では、「燃え尽き」の対極としてエンゲージメントを考えている。彼らの開発した尺度は Utrecht Work Engagement Scale (UWES) と呼ばれ、短縮版のUWES-9 (Schaufeli, Bakker, & Salanova, 2006)と合わせて最も多く用いられるエンゲージメントの尺度となっている。Schaufeli, Salanova, Gonzalez-roma, and Bakker (2002)の尺度は以下ように3つのカテゴリーに分かれており、合計17項目で構成されている。このうち、斜体になっているものはUWES-9に含まれているものである(Kosaka & Sato, 2020)。日本語訳は日本語版から拾ってきたが、対訳ではなく、正直、やや違和感もある。

活力(vigor)
  1. When I get up in the morning, I feel like going to work. (活力3) 朝に目がさめると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる。
  2. At my work, I feel bursting with energy. (活力1) 仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる。
  3. At my work I always persevere, even when things do not go well. (活力6) ことがうまく運んでいないときでも、辛抱強く仕事をする。
  4. I can continue working for very long periods at a time. (活力4) 長時間休まずに、働き続けることができる。
  5. At my job, I am very resilient, mentally. (活力5) 職場では、気持ちがはつらつとしている。
  6. At my job I feel strong and vigorous. (活力2) 職場では、元気が出て精力的になるように感じる。
熱意(dedication)
  1. To me, my job is challenging. (熱意5) 私にとって仕事は、意欲をかきたてるものである。
  2. My job inspires me. (熱意3) 仕事は,私に活力を与えてくれる.
  3. I am enthusiastic about my job. (熱意2) 仕事に熱心である。
  4. I am proud on the work that I do. (熱意4) 自分の仕事に誇りを感じる。
  5. I find the work that I do full of meaning and purpose. (熱意1) 自分の仕事に、意義や価値を大いに感じる。
没頭(absorption)
  1. When I am working, I forget everything else around me. (没頭2) 仕事をしていると、他のことはすべて忘れてしまう。
  2. Time flies when I am working. (没頭1) 仕事をしていると、時間がたつのが速い。
  3. I get carried away when I am working. (没頭5) 仕事をしていると、つい夢中になってしまう。
  4. It is difficult to detach myself from my job. (没頭6) 仕事から頭を切り離すのが難しい。
  5. I am immersed in my work. (没頭4) 私は仕事にのめり込んでいる.
  6. I feel happy when I am working intensely. (没頭3) 仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる。

 質問文を読む限り、ワーク・エンゲージメントとは「やる気」である。燃え尽き症候群は、それまで一生懸命働いていた人が、突然「やる気」を失ってしまうという症状なので、その意味でも「やる気」と訳して間違いない。

従業員エンゲージメント

 UWESが一つの確立された尺度とされているワーク・エンゲージメントと比べると、従業員エンゲージメントは研究者によってとらえ方が異なり、尺度も複数が並立している。その中で、Shuck, Adelson, and Reio (2017)は、ワーク・エンゲージメントと従業員エンゲージメントは異なるとする立場から、従業員エンゲージメントの尺度を開発している。彼らの開発した尺度は、3つの下位次元から構成されている。

Cognitive engagement: 組織的な良い成果に向けて表出する、心理的エネルギーの強さ
  1. I am really focused when I am working.
  2. I concentrate on my job when I am at work.
  3. I give my job responsibility a lot of attention.
  4. At work, I am focused on my job.
Emotional engagement: 組織的な良い成果に向けて、自ら進んで注ぎ込もうとする感情とその強さ
  1. Working at has a great deal of personal meaning to me.
  2. I feel a strong sense of belonging to my job.
  3. I believe in the mission and purpose of .
  4. I care about the future of .
Behavioral engagement: 成果に良い影響を与えるように行動しようとする心理的状態
  1. I really push myself to work beyond what is expected of me.
  2. I am willing to put in extra effort without being asked.
  3. I often go above what is expected of me to help my team be successful.
  4. I work harder that expected to help be successful.

 12項目中斜体の5項目が、my company、my organization、my teamに関する質問で、ワーク・エンゲージメントのUWESが、workとjobに関する項目ばかりだったのとは明らかに異なる(Kosaka & Sato, 2020)。

ワーク・エンゲージメントとパフォーマンスの関係

 Inamizu and Makishima (2018)は、インターネット調査より得られた3,296名のデータをもとに、ワーク・エンゲージメントと職務パフォーマンスの関係を分析した。既存研究では、ワーク・エンゲージメントが職務パフォーマンスを高めると考えてきたので、まず、ワーク・エンゲージメントを説明変数とし、自分と同僚の評価差で測られる職務パフォーマンスを被説明変数として分析したところ、明確な関係性を見出せなかった。そこで、職務パフォーマンスを説明変数、ワーク・エンゲージメントを被説明変数というように入れ替えて分析したところ、綺麗な逆U字の関係があった。つまり、ワーク・エンゲージメントは、職務パフォーマンスが低いないしは高いときに低く、職務パフォーマンスが中程度のときに高かったのである。したがって、因果関係が実は逆である可能性を示唆している。また、自分と同僚の評価の差ではなく和こそがワーク・エンゲージメントと強く関係するという予想のもと分析を行った結果、これらの間に綺麗な線形の正の関係があった。つまり、自分だけでなく同僚をも高く評価するほど、ワーク・エンゲージメントが高まっていたのである。


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