大木(2013)によれば、米国企業、欧州企業、日本企業の海外展開を比較する研究群の中で、海外子会社への海外派遣者(駐在員 expatriate)に関する日本企業の特徴として、次のことが指摘されてきた。
特に a については、どの文献でも指摘されており、特にKopp (1994)は日本の国際的な地位が低下した1990年代に、aについて最も注目した研究者である。こうしたことから、日本人研究者の間ではステレオタイプ的に、日本企業の多すぎる日本人海外派遣者が、問題として繰り返し指摘されるようになるわけだが、実は、Negandhi and Baliga (1979)では、逆に米国企業の早すぎる現地化と海外派遣者の減らし過ぎに警鐘が鳴らされていた。本社とのパイプ役を果たす本国人材(parent-country national; PCN)がいなくなり、アメリカン・ジレンマと呼ばれるような難しい状況に陥っていた。その原因の一つは、米国人海外派遣者の失敗率(途中帰任)が近年まで一貫して高いことにあった(Tung, 1982; Tungli & Peiperl, 2009)。
Oki (2013)は、日本企業の海外子会社25社を、海外派遣社員(expatriate)が多い企業と少ない企業、及び高度な機能をもつ海外子会社とそうでない海外子会社に分類してクロス表を作成すると、高度な機能をもつ海外子会社では、海外派遣社員数の少ない会社はほとんどないことが分かった。日本企業は、欧米の多国籍企業と比較して、海外派遣社員を多用する傾向にあることが指摘されるが、実は、その背景には、日本企業の海外子会社の機能が高度であることも一因ではないだろうか。
海外帰任者(repatriate)に関する研究は、初期には、現象学的社会学で有名なシュッツによる復員兵に関する考察がある(Schuetz, 1945)。そもそも、本国から海外に派遣されると、滞在先でカルチャー・ショックを受けることは知られており、彼らの順応の程度がUカーブになるとしたら、海外に滞在した人が帰国しても、今度は本国において帰国ショックを受けると主張されるようになり、それをGullahorn and Gullahorn (1963)は、再度のUカーブを経てWカーブを描くと主張した(内藤, 2013)。
帰国ショックの原因としては、Feldman (1991)の挙げた「帰任者の仕事変化」(repatriate job changes)は重要であろう。実は、米国企業でも海外帰任者の1/4〜1/2もの人が、帰国後1〜2年以内に離職するといわれ、海外派遣による個人の成長が、帰任後の社内でのキャリア・アップに必ずしも結びつかないことが問題となっている(Black, 1992; Bossard & Peterson, 2005)。海外帰任者の再適応に関しては、Blackとその共著者が、1990年代に集中して多くの論文と本を書いており、その中には米国企業を対象にしたもの(Black & Gregersen, 1991)、日本企業を対象にしたものもある(Black, 1994)。
本国親会社の人材を海外に派遣する海外派遣についての研究は多いが、Kim (2013)は、海外子会社で採用した人材を本国親会社に出向させる逆駐在に関する 既存研究をレビューする。逆駐在員は、その立場、強み、役割などの面で海外派遣員とは明らかに異なる。逆駐在は、(1) 1980年代後半から日本企業におけるヒトの現地化のツールとして実態調査が行なわれるようになった。(2) 1990年代後半からは欧米企業における新興国市場対応策としての研究が始まり、Harveyの研究グループは逆駐在の必要性と逆駐在員が本社内で直面する問題のマネジメントについて、Collingsの研究グループは戦略的なglobal staffingの重要性と逆駐在の発生要件について議論を展開した。(3) 2000年代に入ると、多国籍企業における知識移転のメディアとして、Reicheの研究グループは逆駐在員が果たす知識移転とその促進要因について議論 を展開する。ヒトの現地化といったコンテキストで80年代から議論されてきた逆駐在制度は、いまや新興国市場における市場知識の獲得・移転に悩む 多くの日本企業にとって新しい解決策になるかもしれない。
海外子会社の経営人材に関する議論は、(a)本国人派遣社員と(b)現地人材の二者択一で論じられることが多い。一般的には、立ち上げ初期には(a)を派遣し、最終的には(b)を登用することが望ましいと主張される。しかし、Hamamatsu (2017)は、第三の選択肢(c)本社採用されて派遣された現地人材が、(a)(b)と比較して、現場課題の表出、本国との関係性を元にした事業展開で優位性があった事例を紹介する。現在、日本ではアジア地域からの留学生が増えており、日本企業に就職する留学生も増えている。アジア地域に進出する日本企業にとって、第三の選択肢(c)は現実味が増している。これまでの(a)か(b)二者択一の議論から脱し、(c)も含めた新たな人材戦略論の再構築が求められる。
そうした第三の選択肢(c)の担い手として有望なのが、外国人技能実習生(technical interns: TI)である。外国人技能実習生は、いまや中小企業には欠かせない人手であるが、一般的には短期的な単純労働者の代名詞だと思われている。しかし、Suolinga snd Kim (2020)によれば、気仙沼からインドネシアに進出した中小企業の事例では、インドネシアから来たTIは技能実習を積んで、インドネシア進出の際の力になっただけではなく、その後のインドネシアでの市場浸透と新たな事業機会の発掘にも有効な人的資源となっていった。これこそが本来のinternの姿ではないだろうか。