あいまい性のもとでの組織の意思決定モデルとしてゴミ箱モデル (garbage can model) (Cohen, March, & Olsen, 1972) がある。ゴミ箱モデルの解説としては、たとえば 高橋 (1993, chap.7) があり、シミュレーション結果と実際の調査データを突き合わせて分析した Takahashi (1997) のような研究がある。ゴミ箱モデルのオリジナルの論文ではコンピューター・シミュレーションによる分析が行われていた。しかし、Cohen, March, and Olsen (1972) のAppendixにFortranのソース・コードが掲載されていたにもかかわらず、その後の研究では、シミュレーション・モデルの内容について触れられることは希である。Inamizu (2015) は、Cohen, March, and Olsen (1972) のシミュレーション・モデルを、そのAppendixのソース・コードを解読することで検討した結果、以下の3つのことを明らかにしている。
1990年代以降、日本でも組織のシミュレーション研究が行われるようになった。高橋(2020) は、研究者間の関係も重ね合わせて、日本における組織のシミュレーション研究をレビューする。世界はシミュレーション結果をメタファーとして引用する潮流だが、日本には対照的に、既存モデルを批判的に検討し、自らもシミュレーションを行い、それをさらに調査データと突き合わせて検証するというユニークな研究群が存在する。彼らが得た教訓は、(a) シミュレーション結果の動画は、研究者やビジネスパーソンのイマジネーションを掻き立ててくれる。しかし、(b) シミュレーションが示す現象やパラメータの値の現実性が調査データで裏付けられなければ、シミュレーションから導き出されるインプリケーションは、ただの妄想にすぎない (Takahashi, 2020)。