制度的同型化


競争的同型化と制度的同型化

 米国の社会学者が書いた論文DiMaggio and Powell (1983)「鉄の檻再訪(The iron cage revisited)」は、同型化(isomorphism)について論じている。組織論の多くの研究では、多様な組織が存在していることが研究の出発点、前提となってきた。ところが実際には、意外なほど組織は同質的である。そこで彼らは、むしろ「なぜ組織の形態や行動はこれほど同質的なのか?」という問いを掲げたのである。

 まず、DiMaggio and Powell (1983)は、組織の同質化が起こる領域として「組織フィールド」(organizational field)を考えた。ここで組織フィールドとは、あらゆる行為者間の相互作用を通じて構造化される「全体として制度的営み(institutional life)の認識された一領域を構成するような諸組織」と定義されている。たとえば、類似のサービスや生産物を供給する諸組織、サプライヤー、生産物の消費者、規制当局、認定団体などあらゆる利害関係者が含まれるフィールドである。そして、同じ組織フィールド内で組織が同質化することを「同型化(isomorphism)」と呼んだ。ここで、「環境」と一括りにせずに、「組織フィールド」と呼ぶのは、この概念を使うことで、組織フィールド内で直接結合している者たちのみならず、代替可能な位置を占める構造的に同値な者たちも識別することができるからである。直接結合とか構造同値とかは社会ネットワーク分析で使われる概念なので、ここではこれ以上立ち入らないが、要するに、同じ組織フィールド内では、組織は互いに関係性があるので、その組織間の関係性に同質化の原因を求めようとしたのである。こうして考えられたのが、同型化のメカニズムとしての同型的組織変化の源泉(source of isomorphic organizational change)である。これらは表1のように整理されている。

表1. 同型的組織変化のメカニズム
      メカニズム=同型的組織変化の源泉
競争的同型化環境の淘汰圧力のようなメカニズム。
制度的同型化強制的同型化依存している組織からの圧力、社会の中での文化的期待、例えば、法的な規制。
模倣的同型化組織はより正統的あるいは、より成功していると認識している類似の組織を後追いしてモデル化する。不確実性は模倣を助長する。
規範的同型化主に職業的専門化に起因するもので、@大学の専門家による公式の教育と正統化、A職業的ネットワークの成長と洗練が重要。人員の選別も重要なメカニズム。
(出所) 安田・高橋(2007), p.427, 表1を改変したもの。

 ここで、まず重要なことは、同型化は大きく次の二つのカテゴリーに大別されるということである。

  1. 環境との機能的適合に対応した「競争的同型化」(competitive isomorphism)
  2. 文化・社会的適合に対応した「制度的同型化」(institutional isomorphism)
この二つのカテゴリーの違いは重要である。1の競争的同型化とは、簡単に言ってしまえば、生存競争をして適者生存で生き残ったものは似てくるということである。もう少し格好をつけていうと、環境の淘汰圧力によって進む同型化のことである。生物学同様に、社会学でも、個体群生態学と呼ばれる分野があり、そこでは、生存競争により、環境に適合した組織形態を持つ個体(=組織のこと)が生き残り、それ以外の個体は淘汰されると考えられている。このようなメカニズムで淘汰されると、環境の機能的特性に適合した結果として、結局、似通った組織形態を持つ個体の割合が増えていく。このタイプの同型化が、競争的同型化である。したがって、競争的同型化が進んだ場合、暗黙のうちに、適者生存、すなわち、環境に適応していたからこそ生き残ったのであり、優れていたから生き残ったのだとみなすことが多いのである。そのため、同型化が進むと、ついついパフォーマンスに優れた形態や行動に同型化したのだと、みんな考えがちなのだが、実は、すべての同型化が競争的同型化というわけではない。ここがポイントなのである。組織レベルでのこういうタイプの2の同型化をディマージオ=パウエルは制度的同型化と呼んだ。彼らによれば、制度的同型化では、正統性を示した組織が選択され、さらに次の3つのタイプに分けられる。
  1. 強制的同型化(coercive isomorphism)
  2. 模倣的同型化(mimetic isomorphism)
  3. 規範的同型化(normative isomorphism)

コンプライアンス活動の制度的同型化

 日本企業によるコンプライアンス活動は一定の発展をみせ普及している。しかし、Aizawa (2018)が、不祥事を起こした企業2社を含む、多様な業種の7社についてインタビューや公開された資料を基に調べたところ、7社は驚くほど似たコンプライアンスの制度を有していた。これは、日本企業の間では、経団連や政府の影響下でコンプライアンス活動の制度化が進んだからであり、事実、DiMaggio and Powell (1983)の制度的同型化のメカニズムが機能していた。そのため、パフォーマンスすなわち不祥事防止の成否とは独立に、コンプライアンス活動の同型化が進んだと考えられる。実際、2000年に企業不祥事を起こしたX社の場合は、直後から開始したコンプライアンス活動は、制度的同型化であった(Aizawa, 2018)。実は、このときは極端な業績悪化は見られなかったが、2002年の不祥事直後には、危機的ともいえる業績悪化に見舞われ、生き残りをかけて、そのコンプライアンス活動の内容を独自のものに大幅に見直すとともに、信用力を取り戻すために基幹事業の分社化、株式の一部譲渡などを行った。実際、経営危機に直面して生き残った企業は似たような手法を用いて信用力の回復に努めている。つまり、同じ会社の不祥事対応でも、淘汰圧力が働かないときは制度的同型化、淘汰圧力が働くときには競争的同型化が起きたと考えられる。


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