1990年代以降、リーン生産方式に関する研究では、効率的な生産組織が持つ特性リーンネスの測定尺度開発が進み、HPM調査やIMSS調査に起源を持つShah and Ward (2003,2007)が一つの集大成となっている。しかし、その説明力は必ずしも高くはない。一方、IMVP調査では、質問紙調査に加え、実際に各国の自動車メーカーの開発・生産現場)を訪問していたが、実は、複数の日本の自動車メーカーを比較すると、仮にリーンネス尺度にもとづけば高得点でJIT生産を実現していると判断されそうな現場であっても、その実現方法・やり方には違いがあった。大規模かつ国際的・産業横断的な質問紙調査だけでは、こうした違いを測定し検出することは難しく、そのことが説明力の低さに現れている可能性がある。またリーンネス尺度でパフォーマンスの差異を説明するアプローチには、国や産業の違いを超えた「ベスト・プラクティス・リーンな状態」が存在するというリーン仮説が背後にあるが、説明力の低さはリーン仮説の妥当性に疑問を抱かせる(Fukuzawa, 2019)。
欧米ジャーナルにおけるVSM (value stream mapping)研究においては、重要なリーン・ツールの一つとしてVSMが活用され、パフォーマンスが向上したとの報告がなされているが、そこでは、主に生産活動をはじめとした個別の機能や部門におけるボトルネック発見と改善を促進する部分最適化ツールとしてVSMが機能している。そのため、VSMの適用が成功裏に進むほど、バリュー・チェーン全体での流れに注目することで全体最適を目指していくという、本来のリーン・プロダクトやフロー・マネジメントの本質から乖離してしまい、顧客までの流れ全体のパフォーマンスを下げてしまう可能性がある(Fukuzawa, 2020)。
欧米のVSM (value stream mapping)やクロス・ファンクショナル・インテグレーションに関する既存研究においては、バリュー・チェーン全体での流れに注目することで全体最適を目指していくというリーン生産やフロー・マネジメントの本質からの乖離が見られたり、モノと情報の流れの実態にもとづいた実証研究が十分に行われてない。近年の日本のものづくり企業におけるグローバル化しデジタル化の進んだサプライ・チェーンやバリュー・チェーンにおけるモノと情報の流れの全体最適化を進めていくためには、基本に立ち返り、モノと情報の流れ全体に注目して、「流れの実態」を把握しつつ、それに作用する要因に関する実証的研究が行われることが必要である(Fukuzawa, 2020)。
トヨタ生産方式を起源とするリーン・プロダクションは、業種を超えて普及するようになっている。その中で、スウェーデンの特にサービス業においては、目を見張る状況が生まれている。本稿の目的は、その背景を考察することである。スウェーデンでは、かつてボルボのUddevalla工場で見られたようなSocio-technical systemsの伝統にもとづく労働様式およびマネジメント・スタイルが、リーン・プロダクションに対抗するものとして位置づけられていた。しかし、「リーン」を顧客へ向けた付加価値の流れを淀みないものにしていくマネジメント・アプローチとして定義すれば、両者の統合がありうる。この点を例証するために、学校教育の事例をとりあげる。そこではUddevalla工場で見られたような、自律的チームにおけるreflectionが、「リーン」の実行に伴う問題解決において重要な役割を果たすことが示される。このような統合スタイルは、問題解決への関与を通じて内発的動機づけを引き出し、生かそうとする点で、トヨタ生産方式における「人間性尊重」を具現するものである。それはまた、特にサービスにおいて有効であると考えられる(Kosuge, 2014)。