経営学の方法論


理論構築のためのケーススタディの方法論的基礎

 Eisenhardt (1989)は、理論構築のためのケーススタディの方法論的基礎として最も引用されている研究の1つである。本稿ではまず、Eisenhardt (1989)が主張する方法を要約する。Eisenhardtは、理論構築のための有力な研究手法としてケーススタディを行うための9段階のステップを提示している。しかし、Eisenhardtを引用している研究の多くでは一般化可能性ばかりが強調されている。確かに Eisenhardt (1989)は実証主義の立場を取り、定量的な実証研究を意識したものとなっている。しかし、必ずしも一般化可能性のみを強調しているわけではない。にもかかわらず、Eisenhardt (1989)に依拠して行われた研究でも一般化可能性ばかりが重視されている。そのため、ケーススタディによる理論構築の可能性が制限されている(Sato, 2016)。

グラウンデッド・セオリー

 マネジメント・リサーチの分野で、多数派の仮説検証型の定量研究とは対照的に、定性的な理論構築型の研究を行う際、方法論的正当性を主張するために頻繁に引用されるのが、Glaser and Strauss (1967) The discovery of grounded theory: Strategies for qualitative research (Aldine) を嚆矢とするGrounded theory approach (GTA)である。その後、GlaserとStraussが対立するようになったこともあり、GTAは3つのパースペクティブに分化した。そのうち最も多く引用されているのが、コーディングなどの分析手続きを詳細に規定するStrauss and Corbin (1990) Basics of qualitative research: Grounded theory procedures and techniques (SAGE) であるが、引用する研究がこの特性を十分反映しているとは限らない。その結果、3つのパースペクティブの違いが、研究の方法論の違いに結びついているわけではない(Sato, 2019)。


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