多国籍企業は競争優位を得るために、立地優位性のある場所にバリュー・チェーン上の特定の活動を配置することで国際分業体制を形成すると説明されてきた。しかし実際には、海外子会社が本国とは異なる経営環境にさらされたことで、創発戦略の結果として国際機能別分業が生じた可能性がある。池上金型工業は金型を製造・販売するために日本、メキシコ、中国に生産拠点を置いている。その中でメキシコ拠点は、他の拠点とは異なり、金型の修理・改造事業をしている。これは事前に意図されたものではなく、メキシコの経営環境から創発された戦略だった。メキシコの産業基盤が金型の製造には適していなかった中で、メキシコ市場には金型の修理・改造需要があり、また池上はそれに対応できる技術力を蓄積していた。そのため、金型の修理・改造という新しい事業が生まれたのである(Suh, 2018)。
光ディスク産業では、日本企業が技術開発と商品化を先行してきたが、台湾企業や韓国企業が急速にキャッチアップして、生産量では日本企業を凌駕した。本稿の目的は、台湾における光ディスク産業に焦点を当てて、台湾企業の急速なキャッチアップと成長の要因を考察することである。分析の結果、台湾企業の事業活動は、日本企業との協調や国際分業を前提にして成立していることが明らかにされた。これは、急速にキャッチアップする後進国企業と先進国企業との間の関係は、競争的対立関係と同時に、共存関係もあることを示している(Shintaku, Nakagawa, Ogawa, & Yoshimoto, 2014)。
従来の「海外生産展開によって国内の生産が減る」という空洞化の議論に対して、近年、主に国際経済学の分野において「海外生産展開によって国内の生産が増える」という現象が指摘されるようになった。その具体的なメカニズムについて、Amano (2000)は、経営資源が豊富な大企業であれば、海外生産展開が自発型転換行動と誘発型転換行動を促すことで国内生産の増加をもたらしうると主張した。それに対して本研究では、経営資源が貧弱な中小企業のケース研究から、豊富な経営資源を前提としないメカニズムを発見した。それは、本国では固定的な取引関係ゆえに新規顧客獲得)が難しい自動車部品産業において、海外生産拠点で新しい顧客との取引が実現すると、その「取引実績」をテコに本国内で新規顧客開拓ができるようになるというメカニズムである。これは、日本国内での成長・生存を望む日本の中小企業は、国内展開よりもむしろ海外展開を目指すべきだという逆説を意味している(Hamamatsu, 2016)。
日本の電機産業に属する国内事業所を対象とした質問紙調査の結果、海外に生産機能を移管する動きが多いにも関わらず、(1)生産機能を高程度に完結して行える国内拠点が約90%である。(2)設計機能については生産拠点で完結して行える程度が高い拠点が約54%、低い拠点が約20%と混在している。(3)設計・製造技術・生産といった複数の機能を完全に完結して行える国内生産拠点の方が、そうではない生産拠点に比べて、@ライバル企業に対して、納期の正確さや迅速さ、市場ニーズへの対応力という点で優れており、A自社の中国・ASEANの生産拠点に対して、新製品の提案・開発力の点で優れている。このことは、複数の機能を完結して行うことができる生産拠点は、自社の海外拠点よりも「新製品の提案・開発」における優位性が高いことを示唆している(Fukuzawa & Inamizu, 2017)。