Allen (1977) Managing the flow of technology: Technology transfer and the dissemination of technological information within the R&D organization (MIT Press)の第9章として収載されているAllen and Gerstberger (1973)のノンテリトリアル・オフィスの実験に触発されたといえる80年代以降の環境心理学のオフィス研究では、オープンなオフィスにおけるプライバシーが問題視されていた。しかし、1970年のAllenらの実験ではプライバシーに改善傾向が見られたという。なぜAllenらの実験ではプライバシーが問題にならなかったのだろうか?実は、Allenらのいうノンテリトリアル・オフィスとは(1)パーテーション(partition パーティション)をなくしたオープン化だけでなく(2)自由席化をも実現したものだった。改めてAllenらの実験を検討してみると、固定席ではなく自由席なので、従業員はオフィス内を自由に動き回ることができ、他者との相互作用を調整しやすくなっていた。その結果、プライバシーが改善したと考えられた。つまり、ノンテリトリアル・オフィスのオープン化の側面だけを取り上げるのは適切ではない。自由席化の側面もあわせて考える必要がある。そして、自由席化も考慮すると、むしろプライバシーの問題は改善される可能性が高いのである(Inamizu, 2013)。
さらにいえば、実は、Allen and Gerstberger (1973)の実験後のオフィス・レイアウトを見ると、単にノンテリトリアル・オフィスにしただけでなく、多様なゾーニングがなされ、状況に応じてゾーンを選べるようになっていた。そこで、Inamizu and Makishima (2019)がインターネット調査6592名分のデータを分析すると、
ノンテリトリアル・オフィスには(1)空間利用の効率化と(2)コミュニケーションの活性化の2つの効果があるとされてきた。そして、この2つの効果を得てノンテリトリアル・オフィスが成功するにはオフィスの人口密度に着目する必要があると言われてきた。Inamizu (2014)は、実は、人口密度に関わる指標には4つのものがあることを指摘し、日本マイクロソフト株式会社(日本MS社)のオフィス移転の事例では、
Inamizu (2016)は、オフィス移転をしたX社を対象に、移転前後の2時点で全従業員を対象とした質問紙調査を実施した。その結果、オフィス移転により職場満足度は有意に高まったが、職務満足には有意な変化は見られないどころか、低下する傾向も見られた。合わせて、職務満足の要因として知られる見通し指数も計測したところ、移転前後で有意な変化は見られなかった。オフィスに関する既存研究では、職場満足度が高まると主張されてきたが、このような単純な因果関係は想定しにくく、さらなる検証と考察が必要不可欠であることが示された。
Inamizu (2018)は、オフィスでの行動とクリエイティビティの関係を検証するため、質問票調査を実施した(N=2938)。分析の結果、オフィスでの3つの行動特徴(コラボレーション、フレキシビリティ、デモンストレーション)がクリエイティビティと正の関係があることが明らかとなった。ただし、それらの関係は、個人のパーソナリティによって変わってくることも示された。具体的には、生産的パーソナリティを持つ人は、先の3つの行動特徴を非常に高いレベルで実現できるオフィスでなければ、クリエイティビティを十分に高めることはできない。中程度のレベルのオフィスではそのような人たちのクリエイティビティはあまり高まらないのである。一方、生産的パーソナリティ持たない人は、3つの行動特徴を中程度のレベルで実現できるオフィスでも、クリエイティビティを高められる。しかし、それらの行動特徴を非常に高いレベルで実現できるオフィスにしたからといって、クリエイティビティをさらに高められるとは限らない。つまり、個人の生産的パーソナリティを考慮して、オフィス施策を考える必要がある。
Inamizu (2020)は、ある企業のオフィス及び従業員(308名)を対象として取得された (a)センシング技術を用いたオフィス内位置情報と (b)デイリーアンケート(毎日回答する質問紙調査)のデータをもとに、位置情報からオフィス内でのコミュニケーションのボリュームをある程度推定することが可能であることを示すものである。近年、オフィス環境とコミュニケーションの関係に注目が集まっているが、本研究の結果は、大規模サンプルに対して低コストでオフィス内のコミュニケーションを測定することに対して一つの示唆を与えるものである。