組織論の起源


旧約聖書

 『旧約聖書』(the Old Testament)2番目の書『出エジプト記』は、映画『十戒』でも有名だが、その第18章に書いてあるお話。モーセ(古い表記ではモーゼ)が、迫害を受けていたユダヤ民族を率いてエジプトを脱出して、神の山に宿営していたとき、モーセのしゅうとである祭司エテロは、預かっていたモーセの妻と二人の息子を連れてモーセの宿営地を訪れ、モーセに次のようなアドバイスをする。

「お前のしていることには無理がある。お前自身も、一緒にいるこの民も、きっと疲労困憊してしまうだろう。争いごとがお前には重すぎて、お前一人でそれを片付けることができない相談だからだ。(中略) お前は、すべての民の中から、神を畏れる有能な、信頼すべき人たち、利得を憎む人たちを選び出し、それらの人たちを千人の頭、百人の頭、五十人の頭、十人の頭として彼らの上に置くがよい。彼らがいつもこの民を裁くようにし、大きな争いごとのときはみなお前の所に持ってこさせるのだ。」(関根正雄訳(1969)『旧約聖書 出エジプト記』岩波書店pp.56-57)

 モーセはその忠告を聞き入れるわけだが、これは大きな集団を単位組織に分けて、階層構造を作って管理することに関する最初の記述だといわれている。後に統制の幅(span of control)、例外の原則(exception principle)としても知られるようになる。


図1. 千人の頭、百人の頭、五十人の頭、十人の頭
(出所) 高橋(2016) p.25。

組織論の二つの源流

 旧約聖書まで遡る必要はないが、マーチ=サイモン(March & Simon, 1958)によれば、20世紀以降の組織論の源流は、大きく二つに分かれる。一つは、20世紀初頭のテイラー(Frederick W. Taylor; 1856-1915)の研究を起源としたものである。工場で人間を効果的に使うことを研究した時間研究と動作研究がその代表で、『科学的管理法』(Taylor, 1947)と呼ばれる。

 組織論の二つ目の源流は、科学的管理法と比べて大きな組織問題、部門間分業・調整問題に関わっており、一般に経営管理論と呼ばれる分野に相当している。経営管理論の始祖は、フランスの鉱山技師出身の経営者ファヨール(Henri Fayol; 1841-1925)とされている。ファヨールは、1888年から1918年まで、30年にわたって当時のフランスの大企業コマンボール社の社長を務めた専門経営者である。ファヨールは危機に直面していた同社を立ち直らせ、社長在任中に出版した『産業ならびに一般の管理』(Fayol, 1917)により、経営管理論の始祖と称されるようになった(高橋, 1995, ch.6)。マーチ=サイモンが、組織論の二つ目の源流の良い例として挙げているギューリック=アーウィック編の論文集(Gulick & Urwick, 1937)は、ファヨール晩年1923年の講演内容(フランス語)の英訳などを含み、全体として古典的な経営管理論の論文集に仕上がっている。

 まずは、この二つの理論領域の主要な特徴と問題点について、マーチ=サイモンの第2章(March & Simon, 1958, ch.2)を土台にして整理しておこう。


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