かつて、半導体の光露光装置は、「物理的法則」によって技術的限界を迎えると考えられていたために、次世代技術として、X 線や電子ビームを用いた装置の開発が進められていた。しかし実際には、ユーザーの要求や選好の変化、部品性能の向上、および補完技術の進歩によって、光露光装置は「物理的法則」が示していた技術的限界を乗り越え、依然としてドミナント・デザインであり続けているとHenderson (1995)は主張する。果たして、本当にそうだったのかについては疑問がある(田口・高橋, 2010)
さらにいえば、光露光装置の技術的限界を示すと考えられていた物理法則は、実は、パラダイムとして機能するようになったのである。かつて半導体の光露光装置は、レイリーの式(Rayleigh criterion)を使って、解像度で技術的限界を迎えると予想されていた。ところが実際には、【鏡系/等倍/一括露光】から【レンズ系/縮小/分割露光】へとアーキテクチャが変わると、予想された解像度の限界を超えて光露光装置の微細化が進んだ。限界を予想した際に用いたRayleigh criterionを専門家達が繰り返し使い、今度は、解像度向上の方策についての “a set of recurrent and quasi-standard illustrations”が行われる。Rayleigh criterionこそ、Kuhn (1962) The structure of scientific revolutions (University of Chicago Press)が “community's paradigm”と呼んだものの典型であり、Rayleigh criterionに則って (a) NAを大きく、(b) 波長を短く、(c) k1 factorを小さくすることで解像度向上が実現されてきた(Takahashi & Kikuchi, 2017)。