知財戦略


特許の値段

 Takahashi (2014)によれば、特許の値段の幅は、経営学的な四つの側面:

  1. 当該特許の回避コスト
  2. 発明者である研究者・技術者自らがリスクを負担して起業した場合の創業者利益
  3. 経営戦略論のリソース・ベース理論で指摘されている競争優位を支える要因
  4. モチベーションに対する金銭の負のインパクト
で決まってくる。Takahashi (2014)は、そのことを日本の青色LED訴訟のケースで例示する。この四つの側面から見えてくるように、会社が求めているものと、従業員発明家が求めているものの種類は異なっている。だからこそ、両者の共存共栄関係が成立する。会社と研究者が、金銭という一次元の世界でのみ綱引きを繰り返していては、コンフリクトの解決は永遠に望めない。

ライセンス・コスト

 Nakano (2020)は、第二次世界大戦後の日本の電機産業の製品開発を、ライセンス・コストの削減戦略の視点から捉え直す。日本の電機メーカーは、戦後直後は、海外からの技術導入によって自社の技術を高めていった。しかし、製品をできるだけ安価にする方策を模索する中で、ライセンス生産にはライセンス・コストの限界があった。そこで多くの日本の電機メーカーは、自社開発した特許を元にしたクロスライセンスで相殺してライセンス・コストを抑えるようになった。さらにライセンス・コストを抑えるには、自前のライセンスで製品を造るしかなく、各電機メーカーは中央研究所を設立し、1990年代初頭まで自前主義が幅を利かすが、実は、これは歴史的には特異な行動だった。


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