製品開発


製品開発論

 新製品開発の実証研究は、体系的な研究がスタートした1960年代には成功プロジェクトのプロフィールを包括的に分析し、普遍的な成功要因を明らかにする「グランド・アプローチ」だった。1970年代には製品開発の特定の側面(テーマ)に焦点を絞って分析する「フォーカス・アプローチ」が台頭し、さらに1980年代後半には製品開発のプロセスに焦点をあて、そこでのマネジメントとパフォーマンスとの関係を詳細に分析する「プロセス・アプローチ」が現れた。このように、ほぼ10年サイクルで新たな研究アプローチが台頭し主流が変わる点が新製品開発研究の特徴である(Kuwashima, 2012)。

 製品開発マネジメントの研究領域では、1990年代、Clark and Fujimoto (1991) Product development performance: Strategy, organization, and management in the world auto industry (Harvard Business School Press)による金字塔的な研究「ハーバード研究」を基礎として、研究アプローチの多様化が起こった。新たに台頭した主な研究アプローチは、製品や産業特性を考慮して効果的な製品開発マネジメントを明らかにする「製品・産業特性アプローチ」、個別プロジェクトを越えて複数プロジェクトを分析対象とする「マルチプロジェクト・アプローチ」、長期的な視点に立ち製品開発の動的な側面に注目する「ダイナミック・アプローチ」、製品開発を問題解決プロセスと捉える「問題解決アプローチ」、高い製品開発パフォーマンスをもたらす組織能力を明らかにする「組織能力アプローチ」の5つである(Kuwashima, 2013)。

 製品開発成果の主要な測定指標には(1)成功度(or成功/失敗)、(2)生存、(3)商品力、(4)開発生産性・開発期間の4つがある。製品開発研究の歴史を、成果の測定指標の側面から捉えた場合、同研究領域の成立期である1960年代から1980年代までは、(1)の指標を採用する研究が多かった。それに対して、1990年代以降は、(4)の指標を採用する研究が主流となった。この変化のきっかけとなったのが、ハーバード大学のClarkとFujimotoによる自動車産業の国際製品開発プロジェクトの比較調査(Clark & Fujimoto, 1991)である。Clark and Fujimoto (1991)は、製品開発の成果指標として、「開発生産性(開発工数)」「開発期間」「総合商品力」の3つを採用し、これらに影響する組織・プロセス・戦略変数を統計的に分析するという革新的な実証研究手法を提案したのである(Kuwashima & Fujimoto, 2013)。

オーバーラップ型製品開発

 Itohisa (2013)は、オーバーラップ型製品開発プロセスにおいて、製品開発パフォーマンスが向上するメカニズムとその条件を明らかにすることである。 (1)製品設計(上流)と(2)量産準備(下流)のプロセスは、相互依存関係にあるが、X社における事例分析の結果から、製品Aの場合、(1)で、製品機能のノイズに対するロバストネス(頑健性)は十分に確保されておらず、(2)のその後の作業もやり直しの連続で、形式的にオーバーラップしていても製品開発リードタイムの短縮につながらなかった。ところが製品Bの場合、より多くの工数はかかるが、(1)に品質工学を導入し、とりあえずの情報のロバストネスを確保したことで、(2)の金型設計者は、量産手配前から積極的にとりあえずの情報を活用して、流動解析 など「金型の事前検討」を行うことができるようになった。それに加え、金型設計者は製品設計者のところに赴き、製造性に関する問題点を指摘するこ とで、量産手配前にdesign for manufacturingが実現できるようになった。このように、とりあえずの情報のやりとりだけではなく、実際に(2)量産準備を始められるようなフロントローディングを(1)製品設計で行うことが、実質的なオーバーラップを可能にする条件であり、その条件を満たしたときに、(2)での製造性 確保のためのやり直しの回数も大幅に減らすことができ、量産準備のパフォーマンスは大幅に向上し、全体のリードタイムも短縮できたのである。

デザイン思考

 Akiike and Ichikohji (2021)は、デザイン思考(design thinking)が経営学でどのように研究されているかを検討した。主要な経営学ジャーナルに掲載されている論文をレビューした結果、(a)デザイン思考については複数のコア研究からなりたっており、様々な要素が含まれているものの、(b)直近の実証研究は、Brown (2009)及びMartin (2009)の議論を踏まえて、実践やツールと合わせて議論し、ユーザ中心及び実験というテーマについて言及している点は共通していた。


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