ルーチン・ダイナミクス


ルーチン・ダイナミクス

 組織ルーチンの変化メカニズムを研究する分野を "routine dynamics" と呼ぶようになった中心人物二人による論文Feldman and Pentland (2003)Feldman (2004)を読んでも、何か新しいものがあるのかよくわからない。そもそも、組織ルーチンという用語は経営学者等の組織論研究者の間で広く使われており、近代組織論のど真ん中のMarch and Simon (1958; 1993)は、間違いなく源流である。

 経済学寄りの源流の一つがNelson and Winter (1982) An evolutionary theory of economic change (Belknap Press of Harvard University Press)であることは頻繁に指摘されるが、同じ用語を使っていても、NelsonとWinterは進化経済学の単なるパーツとして組織ルーチンを使っており、経営学で使用される組織ルーチンの定義と概念的に大きな違いがある。たとえば、(a)一つの企業は一つの組織ルーチンをもち、(b)確率的な突然変異とその後の自然淘汰で組織ルーチンが変化し、(c)他の組織が持つ組織ルーチンは容易に自らの組織に移植できると考えられている。ところが、経営学的な視点で実際の企業を観察すると、(a)一つの企業は多くの組織ルーチンをモザイク状に組み合わせて持っており、(b)意図的に組織ルーチンの創造・模倣・選択が行われ、(c)移植には調整コストが発生して容易ではない。組織ルーチン論の新たな枠組みとして近年注目されつつあるRoutine Dynamicsでも(c)の調整の必要性はあまり重要視されない傾向があるが、Iwao (2015)は、実際の組織ルーチンの変化を論じるには調整の観点が重要であることを、自動車製造会社がトヨタの生産手法を取り入れて失敗した事例から説明する。

 Yamashiro (2019)が取り上げる営業組織変革の事例では、優れた成果をあげる組織ルーチンが形成され、他組織にも利用可能な形で見える化・標準化されていたにも関わらず、営業拠点間で移転しなかった。その原因は、「組織はKPIを達成すれば、その自律性が保障される」という営業組織のルールの存在だった。すなわち、各営業拠点がKPIを達成している好業績組織においては、各営業拠点は高い自律性を保障されているので、(a)独自に組織ルーチンを改善していい、(b)他組織の組織ルーチンを押し付けられない。つまり、好業績組織において、組織ルーチンは、(a)各営業拠点で独自進化し、(b)各営業拠点間では横展開しないという適応放散が観察された。


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