技術はそれ独自の論理で進歩する(そして社会に影響を与える)と考える技術決定論に対し、反技術決定論ともいえる一群の研究がある。古くはトーマス・クーンの『科学革命の構造』(The structure of scientific revolutions) (Kuhn, 1962)のパラダイム論に代表される科学的知識の社会学(sociology of scientific knowledge; SSK)が、科学的知識は科学者間で社会的に形成された合意事項にすぎないと考えた(宮尾, 2013)。
その流れの中でも注目を集めたのが、ピンチとバイカーが1984年に Social Studies of Science 誌に発表した論文(Pinch & Bijker, 1984)で提唱した「技術の社会的構成」(social construction of technology; SCOT 「スコット」)である(1987年にその短縮・改訂版が本(Bijker, Hughes, & Pinch, 1987)に収録された)。彼らは、ある人工物が選択されたとき、それが有益だったから選択されたのだと技術決定論的に説明するのではなく、それが有益だとみなされるようになるプロセスとして説明する必要があると考えた。より実践的には、ある人工物について技術合理的な定説を取り上げ、それとは別の社会的な説明が可能であることを示すのである。より具体的には、自転車を例に、当初、人工物には(a)「解釈の柔軟性」(interpretative flexibility)があり、同様の解釈を共有している(b)「関連社会グループ」(relevant social group)が複数存在していたが、やがて多様な解釈・人工物が一つに(c)「収束と安定化」(closure and stabilization)すると定式化する。この(a)(b)(c)の3概念がSCOTの主要概念となる(宮尾, 2013)。
SCOTは1980年代から1990年代にかけて論争を巻き起こした。これだと社会を説明変数、技術を被説明変数に逆転させただけの社会決定論になってしまうので、アクター・ネットワーク理論(actor-network theory)のように、社会的アクターも物的アクターも同等に扱うべきであるという批判や、技術パラダイムのような構造が存在し、それによる技術発展の方向付けがあることを見落としているという批判が起きた。それらを受けて、「あるコミュニティが問題解決に用いる概念・技術」(Bijker, 1987, p.168)として「技術フレーム」(technological frame)を定義して導入したりしてバージョンアップした(宮尾, 2013)。
Bijker (1995)は、SCOT、アクター・ネットワーク理論、システムズ・アプローチ(Hughes, 1983)の三つをまとめて社会技術アンサンブル(sociotechnical ensembles)と呼んでいる(綾部, 2006)。他方、SCOTと同じ頃の英国で、同様の反技術決定論を唱えた技術の社会的形成(social shaping of technology; SST)の方も、20世紀末に、こうした様々な反技術決定論的研究群の旗印を名乗るようになったために、SCOTやアクター・ネットワーク理論などを含む研究群をSSTと総称する人もいる(宮尾, 2013)。