標準産業分類 (SIC)


高橋(2016) 第1章から一部を抜粋して解説】

標準産業分類 (SIC)

 統計に用いられる標準産業分類(Standard Industrial Classification; SIC)は、日本で用いられているものは「日本標準産業分類」と呼ばれる。

実際の「日本標準産業分類」(総務省のホームページ)

 日本標準産業分類は、国勢調査に代表される統計法に基づく指定統計調査などで産業別の統計を表示する際の統計基準である。1920年(大正9年)に行われた日本最初の第1回国勢調査のときには産業と職業が混在したような職業分類が用いられていた。明確に職業と分離した産業分類が初めて作られたのは1930年(昭和5年)の第3回国勢調査のときとされる。その後、工業分類、農業分類等部分的な産業分類も作成され、これらの間での分類上の統一性に欠けたために、1940年(昭和15年)の第5回国勢調査の際に標準産業分類が作成されたが、このときは形式的統一にとどまったといわれる。

 戦後、1947年のGHQ(General Headquarter; 連合国軍総司令部)からの「覚書」(Memorandum)で、占領下の1950年の国勢調査を1950年世界センサスの一環として実施することが指示される。これを受けて、日本標準産業分類は日本標準職業分類とともに、米国の分類専門家の指導を受けて急速に整えられた。日本標準産業分類は、その作成に当って、原則と定義は差し支えない限り米国及び国際連合のものが採用され、その点では、従来の日本の統計との比較において相当の犠牲を払わなければならなかったといわれるが、1949年に「日本標準産業分類」が制定された。その後も産業構造の変化にともない、これまでに1951年、1953年、1954年、1957年、1963年、1967年、1972年、1976年、1984年、1993年、2002年、2007年、2013年と13回もの改定が行われている。現在は総務省統計局統計センターが刊行している。日本標準産業分類が採用した分類上の一般原則の基本的なものは、その後、改定を経ても継承されているが、それは、「産業分類」は「商品分類」や「職業分類」とは別のもので、事業所(establishment)をその「経済活動の種類」(kind of economic activity)によって分類するものとしたことといわれる(三潴, 1983, p.159; p.171)。

 日本標準産業分類は大分類、中分類、小分類、細分類の4段階分類であるが、2002年と2007年の改定は、情報通信の高度化・サービス経済化への適合、国際標準産業分類(ISIC)や北米産業分類システム(NAICS)等の国際的な産業分類との比較可能性の向上を目指して、1957年改定以来の大分類項目の新設をともなう全面的な大改定となった。その結果、2007年以降の日本標準産業分類では、大分類はアルファベットで示される「A 農業、林業」「B 漁業」「C 鉱業、採石業、砂利採取業」「D 建設業」「E 製造業」「F 電気・ガス・熱供給・水道業」「G 情報通信業」「H 運輸業、郵便業」「I 卸売、小売業」「J 金融、保険業」「K 不動産業、物品賃貸業」「L 学術研究、専門・技術サービス業」「M 宿泊業、飲食サービス業」「N 生活関連サービス業、娯楽業」「O 教育、学習支援業」「P 医療、福祉」「Q 複合サービス業」「R サービス業」「S 公務(他に分類されるものを除く)」「T 分類不能の産業」の20項目(1993年改定と比較すると2002年改定で5項目増、2007年改定でさらに1項目増)、中分類は2桁の数字で示される99項目(同2項目減、2項目増)、小分類は3桁の数字で示される529項目(同43項目減、109項目増)、細分類は4桁の数字で示される1,455項目(同53項目減、186項目増)となっている。2013年改定では、大分類、中分類は変わらないが、小分類は530項目、細分類は1,460項目にさらに増えている。大分類のうち、G、M、P、O、Qの5項目が2002年改定で、従来までの「運輸・通信業」「サービス業」から再編・分離されて新設されたもので、2007年改定では、さらにL、Nが「サービス業」から分離されて新設された。他方、それまで独立した大分類だった農業と林業は、2007年改定でA一つにまとめられた。

 ちなみに、例えば大分類「E 製造業」に属する2桁の数字で示される中分類項目、つまり2桁産業は24項目である。これを3桁の数字で示される小分類項目つまり3桁産業の197項目とともに表4に示しておこう。なお、2007年改定では、各中分類で、企業内の主要な経済活動と同一として取扱ってきた本社等の「管理、補助的活動を行う事業所」について、新たに小分類項目が設けられたが、表4を見ると、090、100、110、……、320がそれに当っていることが分かる。

標準商品分類 (SCC)

 「日本標準産業分類」とは似て非なるものとして「日本標準商品分類」がある。

実際の「日本標準商品分類」(総務省のホームページ)

 「日本標準商品分類」(Standard Commodity Classification for Japan; JSCC)は工業統計調査をはじめとする商品別を必要とする諸統計調査に用いられており、現在は「日本標準産業分類」と同様に、やはり総務省統計局統計センターが刊行している。1950年に最初の日本標準商品分類が米国の1946年の標準商品分類(Standard Commodity Classification)を摸して刊行されているが、1951年に国際連合が標準国際貿易分類(Standard International Trade Classification; SITC)を制定し、輸出入統計品目表が1951年からこれに準拠することになったため、1955年には最初の改定が行われ、その後も 1959年、1964年、1975年、1990年と5回改定が行われている。

 日本標準商品分類は大分類、中分類、小分類、細分類……の段階分類であり、例えば1964年版の大分類は「1. 粗製材料」「2. 加工基礎資材」「3. 最終製造品」「4. スクラップおよびウエイスト」「5.骨とう品」「6. 分類不能」のようになっていた。しかし、この分類を使うと、例えば、原綿は「1. 粗製材料」に属し、綿布は「2. 加工基礎資材」に属し、綿製衣類は「3. 最終製造品」に属し、綿紡ウエイスト、縫製ウエイストは「4. スクラップおよびウエイスト」に属し、綿製品で古くて骨董的価値のあるものは「5.骨とう品」に属するというように、製造プロセスに添って製品が大分類を移ることになる。実はこうしたことは日本標準商品分類が「用途」で分類し、原則として粗原料的商品から最終製造品的な商品に、最終製造品については、生産財的な商品から消費財的な商品の順に配列されているために起こるのであり、特に用途主義によって、船舶用、航空機用、医療用などで別の中分類に分類されてしまうことは、多角化の度合を見る際に、事業の分類として使う場合には実に都合が悪い。

 しかし、より本質的な問題は、商品分類では、「商品」を製造しない産業、すなわち日本標準産業分類の大分類でいうところの「D 建設業」「G 情報通信業」「H 運輸業、郵便業」「I 卸売、小売業」「J 金融、保険業」「K 不動産業、物品賃貸業」「L 学術研究、専門・技術サービス業」「M 宿泊業、飲食サービス業」「N 生活関連サービス業、娯楽業」「O 教育、学習支援業」「P 医療、福祉」「Q 複合サービス業」「R サービス業」がまったく取り扱えないことである。こうした産業への進出も多角化としてとらえるのが普通なので、商品分類による多角化の把握は実態を歪めることにつながる。そもそも商品分類で事業や産業を分類しようとすること自体が論理的に無理なのであって、多角化の度合を見る際には、商品分類ではなく、産業分類を用いなくてはならない。

 ところで日本標準商品分類の1990年の改定は大改定となっている。これは、関税協力理事会(Customs Co-operation Council; CCC)が国際貿易面での統一的商品分類とするために作成した「商品の名称及び分類についての統一システム」(The Harmonized Commodity Description and Coding System; HS)が1983年にCCC総会で採択され、1988年から日本でも適用されるなど世界各国で採用されて貿易統計の作成に使用されていること。そして1985年には国際連合統計委員会においてSITCの第3次改定版が承認され、HSの分類の方が細かくなっているものの両者の分類項目はすべて対応付けされていること。こうした理由から、このような国際標準分類との整合性をもたせる大規模な改定となったといわれる。

 この改定により、1990年の日本標準商品分類では、大分類は数字で示される「1. 粗原料及びエネルギー源」「2. 加工基礎材及び中間製品」「3. 生産用設備機器及びエネルギー機器」「4. 輸送用機器」「5. 情報・通信機器」「6. その他の機器」「7. 食料品、飲料及び製造たばこ」「8. 生活・文化用品」「9. スクラップ及びウエイスト」「0. 分類不能の商品」の10項目、中分類は2桁の数字で示される97項目、小分類は3桁または4桁の数字で示される678項目となった。ここで注意がいるのは、小分類を示す数字の桁数である。実は、1964年に日本標準商品分類が改定されたときに、非鉄金属、家具などの中分類商品で小分類項目の数が10を超えてしまい、そのために、これらの商品では小分類は4桁表示になり、3桁商品は存在しないことになってしまったのである。つまり、日本標準産業分類の3桁産業などとは異なり、そもそも日本標準商品分類には小分類項目はあっても、3桁商品のような概念は、1960年代後半には既に存在しえなかったのである。吉原他(1981)のいうところの「3桁商品」とは「小分類」の間違いであろう。ちなみに、大分類の3〜8は、これまで一つの大分類「最終製造品」に集約されていたもので、1990年の改訂で分割されたものである。また改訂によって、たとえば、それまでの中分類「ボイラ」に原子炉が追加され、核燃料物質までがこの中分類に属することになってしまうようなことがあるので注意がいる。

参考文献

三潴信邦 (1983)『経済統計分類論』有斐閣.


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