サプライヤー


サプライヤー

 Dyer and Singh (1998)は、企業を分析単位とするのではなく、企業の組あるいはネットワークを分析単位とし、他社との関係性に着目して企業の競争優位を考える relational view (RV)を提示した。しかし、RVの視点から競争優位を唱える際、そこで想定されているのが、トヨタとそのサプライヤー群という特殊ケースだということに 注意しなければならない。トヨタとそのサプライヤー群は、同じ日本の他の自動車メーカーと比べても、(a) 地理的に近く立地し、(b) 特殊資産の投資が多く、(c) 人的交流を通じた積極的な知識共有を進めていて、それを背後にある体系的な組織間学習の仕組みが支えている、という特殊性がある。それ故、RVで考えられ ている競争優位もまた、以上の前提条件を満たす会社でうまく発揮されると考えるべきである。さらに、特殊資産を増やし長期取引関係の優位性を説く RVの議論は、(d)製品の特性にも大きく依存している。仮に、自動車以外の製品、たとえばパソコンのように、頻繁に取引相手を変更し、短期取引で構わない製品に関しては、RVが妥当性をもつ保証はない。こうした考察から、RVの視点から競争優位をもたらす前提条件として、(a)〜(d) の4つを挙げて整理する(Kobayashi, 2014)。

 Song and Suh (2016)はグローバル素材サプライヤーA社のprofessional organization for offering customer solution (POOCS)を事例分析する。素材を扱うA社は川上に位置していて、直接取引を行う顧客はサプライヤー・システムの中では2次、3次の企業が多く、サプライヤー・システム全体の方向性や産業全体のトレンドの理解が難しかった。しかし、POOCSを作ったことで、A社内の技術者は、semantic noiseに煩わされることなく、外部のChain CaptainやTrend Settlerの情報を理解して、ソリューション提案をできるようになった。すなわち、POOCSは、Allen (1977) Managing the flow of technology: Technology transfer and the dissemination of technological information within the research and development organization (MIT Press)のゲートキーパーと同様の機能を果たしていたのである。Allenは、ゲートキーパーの存在とパフォーマンスの関係までは見出せなかったが、 A社の事例では、POOCSを作り、ゲートキーパーとして機能させることで、明らかにパフォーマンスが向上した。

 サプライヤーにとって、多角化戦略の最も重要な軸は、同一産業内での「製品範囲」の拡大と「顧客範囲」の拡大の2つである。Konno (2017)は、日本の自動車部品サプライヤー企業の多角化戦略を分析するにあたり、各部品取引を分析単位とし、まずは取引関係を大きく「既存取引」と「新規取引」の2つに分け、このうち後者についてはさらに、「製品範囲」と「顧客範囲」の二軸をそれぞれ「既存」と「新規」で2つに分け、計5つの取引カテゴリーに分類し、取引継続期間との間の関係について分析した。その結果、新規顧客・既存製品の取引カテゴリー、すなわち既存の部品を新規の顧客に納入するという取引パターンが、取引継続期間が一番長く、取引継続確率も一番高いことが分かった。

納入先の集中度とパフォーマンス

 Nobeoka, Dyer, and Madhok (2002)は、1995年の日本の自動車部品サプライヤーのデータを使って、日本の7つの自動車組立メーカーに対して、(1)部品の納入先自動車組立メーカーの数、(2)自動車組立メーカー比率のハーフィンダール指数でみた集中度を測定し、納入先自動車組立メーカー数が多く、集中度が低いほど、サプライヤーのパフォーマンス(営業利益率)が高いと結論している。Min and Song (2017)はNobeoka et al.(2002)の分析モデルを踏襲し、1995年に加えて、1985年と2005年のデータについての追試を行った。その結果、1985年と1995年のデータではNobeoka et al.(2002)と同様の結果となったが、2005年のデータでは有意な関係は得られなかった。さらに、(A)納入先自動車組立メーカー数が3社以上と(B)3社未満の2群に分けて営業利益率を比較して見ると、1985年と1995年は(A)群の営業利益率の方が有意に高かった。これに対し、2005年には有意ではないが、むしろ(B)群の営業利益率の方が高かった。サプライヤーのパフォーマンスと納入先自動車組立メーカー数や集中度との相関は、何らかの先行変数が存在するために生じる疑似相関の可能性が高い。

サプライヤーのパフォーマンス

 カスタマイズ部品取引に関する既存研究では、メーカー側の視点から、協調的な関係を構築することで、カスタマイズに必要なコストが削減できるとしていた。では、サプライヤー側から見るとどうなのだろうか。Song, Akiike, and Park (2018)は、日本のサプライヤーについて調べた結果、(a)顧客からの提案と顧客への提案の両方が高い場合、サプライヤーのパフォーマンスは高くなるが、(b)顧客からの提案のみ高い場合は、サプライヤーのパフォーマンスは低くなる。ということがわかった。つまり、サプライヤーのパフォーマンスは上意下達的な関係(b)では悪くなり、双方向的な関係(a)の時に良くなることがわかった。

 日本の自動車産業の部品メーカー系列の(a) 企業実績と戦略的行動である (b)顧客範囲と(c)製品の多様性は自動車会社によって異なるのだろうか。Min (2019)は、(1)トヨタ系列のサプライヤーと非トヨタ系列のサプライヤー、ならびに(2)日産系列のサプライヤーと非日産系列のサプライヤーに分けて、メンバー企業サプライヤーの比較分析を行った。その結果、(a)トヨタ系列のサプライヤーは非トヨタ系列のサプライヤーより企業実績が高かったが、日産系列のサプライヤーと非日産系列のサプライヤーに差はなかった。(b)顧客範囲は、トヨタ系列のサプライヤーと日産系列のサプライヤーの両方ともに、それぞれ非トヨタ系列のサプライヤーと非日産系列のサプライヤーより高かった。(c)製品の多様性は、トヨタ系列のサプライヤーが非トヨタ系列のサプライヤーより低いのに対し、日産系列のサプライヤーと非日産系列のサプライヤーは差がなかった。つまり、トヨタ系列のサプライヤーは、狭い製品多様性を保ちつつ顧客範囲を広げることで高い収益性を実現していたわけで、日産系列のサプライヤーとは戦略的行動が異なっていた。系列に関する既存研究では、系列による違いを重視してこなかったが、本稿の結果は、系列によって戦略的行動が異なる可能性を示唆している。


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