テレワーク


 テレワークは、今のところ少なくとも

の3形態を含んだ勤務形態である。ただし、地理的に分散したチームはコンフリクトに直面するものである(Hinds & Mortensen, 2005)。

ワーケーション

 労働と休暇を組み合わせて行うワーケーションは、ICTの浸透に伴って欧米で登場した概念で、フリーランス等に象徴される個人の自由な働き方とされるが、日本においてはその元来の意味合いを離れ、一部のトレーニング・プログラムがワーケーションと称されるなど、特異な展開が見られる。こうした変化はどのようにして生じたのだろうか。Yoshida (2021)は3つの地域における調査を踏まえ、日本において特徴的なサテライトオフィス・ワーケーション、ラーニング・ワーケーションの登場経緯やそれらを取り巻く各主体の狙いを整理した上で、

  1. 日本では主に雇用労働者が想定されていること
  2. それ故、地方自治体の思惑(「交流人口に繋げたい」)と企業の思惑(「仕事に係わる目的がないと社員を地方に送り出し難い」)が大きな影響を与えていること
  3. その結果、ワーケーションが「地域との深い関りの中で学びや内省、創造力の向上を図る」方向へ変化してきたこと
を明らかにしている。

在宅勤務

 COVID-19の影響により、日本では在宅勤務(telecommuting)が急速に普及した。従来の在宅勤務研究では、在宅勤務はi-dealsの結果であり、location flexibility i-deals (LFi-deals)であるという前提で議論が行われてきた。ここでi-dealsとは、個人が雇用者と交渉して得た特別な取り決めのことで、idiosyncratic dealsを略してi-dealsと呼んでいる(Anand, Vidyarthi, Liden, & Rousseau, 2010)。ところが、COVID-19の流行下では、半強制的な在宅勤務が出現した。そこでTsukamoto (2021)は、

  1. 依然として「出社」
  2. 半強制的に出現した在宅勤務と考えられる「在宅勤務(初経験)」
  3. LFi-dealsを結んだ結果のテレコミューティングと考えられる「在宅勤務(経験あり)」
の3グループに分けて、Takahashi (2002)自己決定度及び生産性との関係を調べた。分析の結果、

マルチハビテーションとマルチオフィス

 2020年前後から、日本ではテレワークやワーケーションが話題になるが、Takahashi (2021)によれば、実は1990年頃の日本でも同様の議論があった。当時、複数の住居を行き来しながら生活するマルチハビテーションが注目されたが、実際には、1人の管理職が、東京圏の本社・親会社と地方の支社・子会社の2ヵ所のオフィスのどちらにも所属しているような状態であるマルチオフィスの方が本質的に重要だった。マトリックス組織が進化したマルチオフィスの状態で重要なことは、どこに住むかではなく、どこで働くかということだった。こうした教訓があるにもかかわらず、いまやテレワークはコロナ禍で在宅勤務と同義語のようになってしまい、ワーケーションも自治体側の「住んでほしい」という念が強すぎる。マルチハビテーション同様、どちらも住む呪縛が解けない。しかし、テレワークやワーケーションにおいては、自宅もしくは自宅近くで働くことよりも、マルチオフィスを実現することの方が重要である。それは30年前もそうだったし、コロナ禍以降でも変わらない。


Handbook  Readings  BizSciNet

Copyright (C) 2021 Nobuo Takahashi. All rights reserved.