超企業組織


超企業・組織論

 多くの人は、疑問を抱かずに、企業と組織は同じものを指していると思い込んではいないだろうか。しかし、現代の日本においては、顧客や外部の利用者から見れば一つの組織に見え、かつ実態としても一つの組織として動いている「組織」が、法制度的にはいくつもの企業に分かれているケースが多い。

 たとえば、日本のある大手航空会社では、「顔」ともいえる「空港旅客サービス」に当っている人員の3/4、「CA」(cabin attendant)の1/5は航空会社本体ではなく、グループ会社の従業員といわれている (Takahashi, 2014)。こうした傾向は1950年代から指摘されていて、日本で1955年から1956年にかけて19の大工場と34の小工場を訪問調査して書かれたアベグレンの Abegglen (1958)『日本の経営』(The Japanese factory: Aspects of its social organization) では、大工場は、かなりの子会社、関係会社をもち、下請けが行われているが、その下請けは時には親会社の工場内で行われていると記述している。実際、こうした現象は大工場でなくても現代の日本の工場では観察される。あるメーカーの従業員数50人程度の工場では、昼夜2交代制で150人近くの人が働いているが、その会社の従業員数50人以外の人は、その会社の下請企業数社から働きに来ている人たちであった。正確には「外注」というべきだろうが、その会社では、これを「内注」と呼んでいて、実に雰囲気が出ている。

 「組織」は実態として機能しているネットワークやシステムの概念なのだが、「企業」はもともと制度であり、境界、あるいは仕切りの概念だという違いがある。考えてみれば、組織、あるいは組織的活動は、有史以前、それどころか、おそらく人類が誕生する以前から存在していたはずである。しかし会社という制度は、「発明」されてから、せいぜい1000年程度の歴史しかない。組織と企業が同じ概念であるはずもないのである。

 企業と組織は違う概念なのだという事実をいったん認めてしまえば、複数の企業が一つの組織として機能しているといういまやまったく当たり前の光景に対する私たちの理解力と構想力は格段に向上する。高橋(編著) (2000)『超企業・組織論』は、こうした組織の見方に基づいた諸理論を「超企業・組織論」(transfirm organization theory)と呼んだ。系列、サプライヤー、パートナーシップ、アーキテクチャに基づく企業間分業、価値ネットワーク、産業集積、ユーザー・イノベーション、ゲートキーパー、情報粘着性、技術移転、トランスナショナル企業、組織文化、ドミナント・ロジックなどが超企業・組織論に該当する。超企業・組織が形成されるのは経済的理由からであろう。しかし、超企業・組織論の関心は、なぜ超企業・組織が形成されるのかではなく、形成された超企業・組織の、組織全体のパフォーマンスなのである (Takahashi, 2014)。


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